家全体から熱が逃げています。
壁、窓からの熱損失が大きい。
アルミサッシ1枚ガラスの時代ではありません。
2重ガラスも普及してきました。
泣きたくなった「長期優良住宅」の建築現場
(鵜野日出男のブログより)
関東エリアで建築中の「長期優良住宅」の建築現場を見学してきました。
長期優良住宅は、国土交通省が推奨している住宅。
木軸工法で認定申請をし、きちんと認可を得て建築中の現場。
地場ビルダーの仕事ぶりは丁寧。
外壁に構造用合板を張り、通気層をとって小幅板を施工していて、耐震等級は2。
アルプラのLow-Eのペアガラスを採用しており、次世代省エネ基準をクリアーしている。
そして、夏期の逆転結露防ぐためにべバーバリアにサバーンを採用。
したがって、階段室が狭かったのを別にすれば、どこから見ても「長期優良住宅」とし
て胸を張って見せられる現場。
ところが、私はこの住宅を見て、哀しくなってきた。
如何に有利なローン減税が受けられても、私は絶対にこの住宅は買わない。
「長期優良住宅はインチキだ」と感じたから・・・。
それは、地場ビルダーに対する不信感ではない。
地場ビルダーは、きちんと法に基づき、指導にしたがって仕事をしている。
ビルダーに瑕疵はない。
問題は、こんな住宅を100年も200年も持つ「長期優良住宅だ」と宣伝し、国民を欺瞞し
ている国土交通省にある。
住宅のプロである住宅局長さんや課長さん。
「あなた方は、本当にこんな住宅を建てたいと考えているのですか?」
「この住宅の寿命が100年も、200年もあると、本気で考えているのですか?」
それと、「木軸工法」の研究機関にも問題が・・・。
品確法では、日本における最高の省エネ性能は4等級と定められている。
次世代省エネ基準がそれ。
※それ以上の等級は世界にはワンサとあるのに、日本の品確法にはない。
関東地域では、熱損失係数(Q値)が2.7Wが最高値。
京都議定書が策定されたのは1997年。
次世代省エネ基準はその2年後の1999年に制定されたから、多くの人は次世代省エネ
基準を守っておれば家庭部門で6%の省エネが図られるものと勘違いしている。
次世代省エネ基準は、京都議定書の完全実施を前提に決められたものではない。
★そこで、当時もっとも進んでいたR-2000住宅の基準の1.4Wと、それまでの新省エネ
基準の4.0Wの間をとって、
「エイ、ヤーッ」と2.7Wと決めたのが次世代省エネ基準なの だと思う。
ヨーロッパでは昨年1月31日のEU議会で「2011年までに、EU圏では住宅に限らず、
すべての新築建築物は、パッシブハウスを基準にするように義務化する」という提案が
なされた。
このパッシブハウス基準の熱損失係数(Q値)は、おおよそだが0.7Wと考えてよい。
関東地域の2.7Wの約1/4という厳しい基準。
したがって、そこまではゆかなくても、関東地域ではR-2000住宅の1.4Wにすべき。
これでもパッシブハウスの2倍という数値。
民主党が本気に2020年までに、1990年比で25%のCO2の削減を図ろうと考えるの
なら、何はさておいてもこのR-2000住宅の1.4Wを、新築するすべての建築に義務化する
法案を用意すべき。
そこまで踏み込まないと、25%の削減は覚束ない。
その法案を成立させる覚悟もないくせに、対外的に甘言をたれ流している姿は、決して
褒められたものではない。
今年から省エネ基準が変わった。
坂本先生を中心とした学者や識者は、当初は次のように考えていたと思う。
今の熱損失係数では、世界の大きな潮流には合わなくなってきている。
だからといって、いきなりR-2000の基準にするには抵抗が大きすぎる。
そこで、誘導値として北海道など寒冷地のⅠ、Ⅱ地域は1.6Wを1.3Wにし、Ⅲ、Ⅳ地域
は2.7Wを1.9Wにする。
それと同時に、新省エネ基準(等級3)を絶対に守るべき最低基準として義務化してゆく。
というものであった、と推測する。
これは、いたって穏便な考え方。
個人的には大いに不満があったが、一歩前進と考えていた。
ところが、この穏便な基準がネグレクトされてしまった。
あくまでも憶測だが、ネグレクトに回ったのは2グループ。
1つは鉄骨プレハブの大手メーカー。
とくに鉄骨プレハブ各社は、現在の2.7Wでさえフウフウ言っている。
そして、ほとんどの住宅メーカーの技術者は「ダイワハウスの外断熱ほどのまがいもの
は見たことがない」と異口同音になじっている。
日本の鉄骨プレハブメーカーの言う省エネ化は、肝心の外皮性能向上には頬かむりをし
て、太陽光発電と燃料電池の採用で逃げようと画策している。
つまり、外皮の熱損失係数(Q値)の1.9Wは、何としても避けたかった。
そこで、もう1つの守旧派グループである全建総連に働きかけ、「このままでは
等級3が義務化されてしまう。
一緒になって新基準廃止を働きかけましょう」と呼びかけたのだと思う。
こうして、自民党政権下の今年の省エネ基準改正は、住宅局の官僚主導で「大山鳴動
ネズミ一匹」 に終わった。
ただ、予定されていた1.3Wと1.9Wの基準値は、年間150棟以上の大手分譲住宅業者約
当然すぎる報いである。
R-2000住宅が導入された当初は、サッシや換気システム、断熱・気密システムが
揃っていなかったので、坪単価は高いものについた。
しかし、数年もしたらサッシなどが揃い、次世代省エネ住宅に比べると坪数万円以内の
差で施工出来るようになった。
大手のプレハブ各社の受注価格で、2倍から3倍の性能を持ったR-2000住宅が全国的に
供給出来るようになってきた。
こうして、R-2000住宅に特化した地域のツーバィフォービルダーは大きく成長すること
ができた。
彼等は、かなりの低価格でQ値が1.4Wの住宅を提供している。
これに対して、軸組専用の内地ビルダーで、コンスタントに1.4Wを切る商品を提供してい
る会社を探すのは難しい。
時折、高性能住宅もやっていますという企業がいるだけ。
あの鎌田先生のQ-1グループも、北海道では多くのビルダーが文字通りQ値1.0W以下の 住宅を提供した経験を持っている。
しかし、私が今年の春に訪ねた関東地域のビルダーが提供していたQ1住宅の実態値は 2.0W前後のものが多かった。
東北や中部のビルダーの実態は分からないが・・・。
正直言って、「この性能でQ1と言うのは羊頭狗肉ではないか」と、信頼感が一気に薄れ
たのは事実。
消費者に対して、紛らわしいことを言ったのでは一時的に伸びることがあっても、賢明な
消 費者からは見離される。
私の脳には「Q値が1.4W以下のものを高気密高断熱住宅と呼ぶのはペテンである」という
刷り込みがなされている。したがって、どんなにデザインが綺麗であれ、機能がフル装備
されていても、反射的に受け付けない。
家の中に温度差のある住宅は、未来派住宅とは絶対に呼べない。
2020年までにCO2を25%削減し、2050年までに80%を削減する住宅の最低条件は、
換気を含めた外皮の性能が関東以西でも0.8W~1.0Wであるべき。
誰が考計算しても結論はそうなるはず。
この条件から大きく外れたQ値2.7W住宅を、「長期優良住宅」と国交省が呼ぶことそのも
のがナンセンス。
せめて北海道のように1.3W以下であるべき。
★日本の住宅の耐震性は?
こうした省エネ面のほかに、※木軸工法で気になるのは耐震性。
神戸と中越の直下型地震の現場を目撃して思想が変わった。
とくに震度7で、2500ガルを越えていた中越の川口町の激震地の被害は想像を絶してい た。倒壊率が90%を越えていた田麦山と武道窪では、面材を使用していない木軸のほと んどが、直下型の強烈ガルによって倒壊した。
面材を使っていて倒壊を免れたものであっても、ホールダン金物が裂傷したり、外部 開口部周りには軒並み亀裂が入っていた。
木軸では柱から柱へ合板とボードを張る。
そして、間には端材を張る。
間柱は、ボードのクギ止めのためのもので、見付け寸法が1寸もないものが多い。
★この張り方では、開口部周りのボード継ぎ目から亀裂が入る。
これに対して、ツーバィフォーは合板もボードも開口部周りはコ型に切り抜く。
つまり、柱から455mmずれた見付け寸法38mmの間柱のところから合板やボード を張り出す。このため、開口部周りに亀裂が入らない。
これは、※非常に重要なポイント。
なぜなら、開口部周りで亀裂が入るということは、その部分のボードを張り替えたにして
も、住宅の気密性がガクンと落ちているから。
家が倒壊しなくても、外部の騒音が入り、花粉やチリ、湿気が入ってくる。
最近の、剛金物を使った木軸では、柱や梁の捻れが少ない。
しかし、羽子板ボルトを使った木軸は、直下型の地震に遭遇した場合は、捻れから気密性
が損なわれる。
日本の伝統的な大貫工法を中心とする木軸工法は、基本的に捻れを認め、隙間を容認する
ものであった。
しかし、省エネ性が最大のテーマになって、断熱と共に気密性能がもっとも重要性能とし
てクローズアップされてきた。
直下型地震に遭っても、強烈な台風に遭っても、捻れが少なくて気密性が損失しない
木軸採用してゆくことこそが、地場ビルダーの最大の仕事となってきている。
激震地の川口町に建てられていた渡部建築のスーパーウォールは、一戸も倒壊しなかった。 しかし、残念ながら気密性能は大きく落ちた。
今まで、想像していなかった気密性の劣化現象が、大問題として浮上。
気密性能が落ちてすきま風が入る住宅を、100年住宅と呼べようか?
川口町のような強烈な直下型地震が、日本全国を襲うことはあるまい。
しかし、直下型地震が避けられないと言われている東京。
★耐震2等級の住宅を建てて、「長期優良住宅だ」と空威張りし、浮かれているわけには
ゆかない。
省エネ性に優れ、3等級以上の耐震性があり、木造ダイヤフラム理論に忠実で、気密性能が 劣化しない住宅づくり。
非常に大変な仕事だが、その条件が満たされていない住宅を見ると、泣きたくなってく
る・・・。